反故紙
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2012.1118 反故紙 新設しました。書きかけの作品とか書き投げの短編とか、あっこりゃ日の目をみるこたぁなさそうだなあ、というものを置きます。
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2018.0323 「てきすとぽい」に投稿した短編のうち、どこにもサルベージしていないものを置きました。時間制限1時間で書いているので、途中で終わっていたり、わけわかんなかったり。
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2018.0217 「最後の翼」
由来:第43回てきすとぽい杯提出作。お題は「切望」でした。書きながら砂の下の物語っぽいなーと思ってました。たぶんあとで修正して入れ込むと思います。
船は出ていくばかりだ。戻ってくるものは一隻もない。
今日もヤタトラシュは遠洋を臨む岬の上から、しぶきのはじける波間をうかがっていた。ヤタトラシュの暮らす〈白砂港〉は西大陸の最東端にある。悪い海神が沈んでいる〈境の海〉を越えた向こう側には、百年ほど前に発見された東大陸がある。そして、東大陸には、人知を超えた妖精と怪物が棲んでいる。東大陸への最短航路をとるために、〈白砂港〉には多くの狩人たちが寄港した。ヤタトラシュがまだ小さい頃は、東大陸から帰った狩人たちが、得意げにとらえた獲物を見せびらかせていたものだった。宝石の羽をもつ小さな妖精。火を噴く鳥。どんな酸を浴びても溶けない不思議なウロコ。夜になると赤々と燃える神秘の鉱石。ヤタトラシュも絶滅した翼竜の卵だという小さな石くれを酔っ払いからもらったことがあった。それがいつからか、狩人たちは向こう側に行ったっきりになり、戻ってこなくなった。船は出ていく。だが誰も戻らない。そのうちに東大陸の話などウソだ、と言う者も現れた。だが、かつての百年で、海を渡り、戻ってきた狩人たちがいたのは事実だし、彼らが持ち帰った不思議の品々は現実に存在していた。だからなのか、いまだに〈白砂港〉から東を目指して船が出ていくことがある。往時よりも数は減っていたし、やはりひとつの帆も帰ることはなかったが。
ヤタトラシュの父親は、その父親の父親の代から、狩人たちや、狩人たちの獲物を目当てに集まってくる商人を相手に宿を貸したり飯を作ったりして暮らしてきた。ヤタトラシュもまた自分もそうなると思っていたのだが、狩人も商人も来なくなった宿はたちまちにして寂れ、廃業を余儀なくされた。ずっと数の減ってしまった旅人を奪い合うには、ヤタトラシュたちの宿は小さすぎたのだ。父親はある日、数か月ぶりに現れた狩人の誘いに乗って、東大陸行きの船の乗組員になった。ヤタトラシュが止めても聞かなかった。それから七年が過ぎた。ヤタトラシュは十七歳になり、父親はまだ戻ってこない。岬から見下ろす。波頭が散ってあぶくが浮かぶ。水平線のどこにも帆船の影はない。岬の崖の下から、ヤタトラシュを呼ぶ声がする。乾物屋の女主人の声だ。休憩時間は終わりで、仕事に戻らなくてはならない。圧倒的に広がる水平線から目を離し、ヤタトラシュは崖沿いの小道を下りはじめた。
昨日、三年ぶりに、東大陸行きの船が出た。ヤタトラシュの乾物屋がちょうど彼らの保存食の調達を頼まれたものだから、女主人は大張り切りで、みな独楽鼠のように働きまわった。久しぶりに見た狩人たちは、かつて見た狩人たちそのものの姿だった。彼ら特有の物々しさを身にまとい、恐ろしげな刃物や鉤縄を腰からぶら下げている。そして、よく飲んで、よく食べていた。彼らのうちの誰もが、二度とこちらの大陸に戻れないとは思っていないみたいだった。船に最後の積み荷を乗せたとき、ヤタトラシュはもう少しで自分を連れて行ってくれと言い出すところだった。結局はそうしなかったのだが。
男たちが漁から帰ってくる。船から降ろされた魚をかごいっぱいに詰めて、乾物屋の加工場に降ろしていく。ヤタトラシュはほかの女たちと並んで、魚の頭を落として、内臓をこそぎとった。身を開いたものをまたかごに詰めていく。さばききったあとに、そのかごを持って強風の吹きすさぶ崖の上に持っていく。それから乾燥させたり、以前に干していた身を持って帰ったりする。日が落ちたら、使った包丁やかごを洗って、明日の漁に備える。一日が終わる。次の日がくる。休憩時間に、また、海を見に行く。毎日が繰り返される。
暗闇の中でヤタトラシュは目をあけた。
周りから、雑魚寝している住み込みの女たちの寝息が聞こえる。彼女らを起こさないように、そっと寝床から抜け出す。薄い木の戸を引いて、月夜の外に駆けだした。息を切らせて、岬の手前にあるぼろぼろの廃屋を目指す。昔、ヤタトラシュと父親が狩人たちを迎え入れていたかつての宿のなれの果てが、月光にしらじらと浮かび上がっている。ヤタトラシュはそっと戸を引き開けた。月の光も届かない廃屋でも、子どものころに歩いた床がヤタトラシュを正しく導いた。ときどき床を踏み抜きそうになりながら、子ども部屋にたどりつく。ヤタトラシュの部屋だ。その、部屋の隅の床板をはがす。手の爪を汚しながら床下を掘っていく。ヤタトラシュの額から汗のしずくがふたすじ滴ったころ、指先に小さな固い感触が返ってきた。小さなヤタトラシュの宝物が、そこにはあった。これは最後の翼竜の卵なんだ、とあの狩人は言っていた。こいつが大きくなれば、背中に乗ってどこにだって行ける。世界の王様にだってなれるぜ。
片手で握ってしまえる小さな石くれを胸に抱いて、ヤタトラシュは祈った。世界の王様になる必要はないけれど、きっと……。
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2017.0617 「つなぎたがり」
由来:第39回てきすとぽい杯提出作です。お題は「擬人化」。ヒャッフー人外!!て、ちょっと張り切りすぎて、いやいや抑えなきゃと自制したらびっくりするほど地味になりました。
擬人化サービスが世に普及してかなりの時間が経過した。かなりの、というのは、物が人格を得たことによるトラブルが落ち着いて、彼らの権利が定義され、そして彼らを規定する法律があらかた議論されつくし、判例も出尽くしたくらいの時間、という意味である。
警察署を出た先の大通りは、ひしめき合う人と彼らでごった返していた。
擬人化を連れ歩くときの注意点やらなんやらの義務講習を受け終わって、達子は早々に帰宅するつもりだった。が、後ろからついてきているはずのホチ男がいなかった。慌てて振り返る。ホチ男は少し離れた位置で足を止めていた。彼が何に気を取られているのか理解して、達子はぎくりとした。
「一、人は自身が所有権を持たないものに擬人化を行使することはできない」
彼は警察署ビルの電光掲示板に映る擬人化三原則を読み上げていた。達子はホチ男の袖を引っ張って、その行為をやめさせた。達子が手を引いて「行くよ」と先を促すと、ホチ男は素直についてきた。
「一、人が擬人化を行使できるのは二十歳までに一回、それ以降に一回、合計二回である」独り言のように続けていたホチ男が、ふいに達子の指をにぎった。「ね、達子はおれがはじめて? それとも、二回目?」
達子は歩く速度を上げた。達子は二十歳の誕生日を迎えてすぐにホチ男をこの世に生み出した。ホチ男には、彼が二人目かどうかは伝えていなかった。
「一、擬人化されたものは、ロボット三原則に従うこと」
どんなに人間に似ていても、彼らはロボットだった。擬人化したい物を擬人化センターに持ち込んで、人工知能がそれらの機能を分析し、分解し、人に似せて再構築したモノ、というのが擬人化の正体だった。
二十歳で擬人化の権利を使い切っている者はまれだ。国にもよるが、ここ日本の統計では、たいていの人々が十代前半までに思い付きや衝動で一回目の権利を行使して、その半数以上が「後悔している」と回答している。百点満点のテストの解答用紙や、お気に入りの色鉛筆なんかをうっかり擬人化させて、数年――あるいは数日も経たないうちに彼らの寿命を迎えさせてしまう。優しく勉強を見てくれる解答用紙は雨にぬれて溶けた。色鉛筆の描き出す美しい絵は彼自身を摩耗させて生み出しているものだった。擬人化のチャンスが二回与えられているのは、一回目に失敗させて、二回目への反面教師とさせるためだと言う者さえいる。とにかく、二回目の権利はなかなか行使されない。人生の分岐点――結婚とか、死別とか、そういうときまで、大切にとっておかれる。
「なあ達子」
「なに」
「地下鉄通り過ぎた」
ホチ男の言うとおりだった。考え事をしながら歩いていたせいか、達子はいつもの降り口が目に入っていなかった。
「達子、疲れてる? 少し休む?」
言ったそばから、ホチ男は道の脇のベンチに達子をさそった。ベンチはラーメン屋の前にあった。行列待ち用に備え付けているものだった。
「こういうもののほうが、案外長持ちするのかもね」
ホチ男に手を引かれるまま、達子はベンチに座り込んだ。隣のホチ男はベンチを愛し気になでていたが、達子は彼の意見に賛成する気にはなれなかった。人より長生きする物なんて、ほとんど存在しない。鉄はさびる。陶器は割れる。木材は腐る。プラスチックは太陽光線で劣化する。……だから達子は、交換可能なものを擬人化すればいいと思った。あの頃は、いい考えだと思った。天才だとさえ感じていた。替え芯を付け替えることでいつまでも使えるという触れ込みのボールペンを、小学五年生の達子は擬人化したのだった。それからわずか五年後、ボールペンを作っていた会社は、脱税を内部告発されて倒産した。最後の替え芯がなくなったとき、ボル男は消えて、いなくなった。
もうあんな思いはしたくない。そのために、達子は考えて、考えて――次の擬人化に挑んだのだ。ボル男の修理は、少し達子に難しかった。だけど、ホチ男なら、いける気がするんだ。きっと、ボンドと鉄くずで無限に修理できる。
達子はようやくホチ男の顔を見た。この世のものとは思えない、パステルブルーの髪の毛が風にそよいでいる。
「ホチ男って手をつなぎたがるよね」
「ホッチキスだからね」
ホチ男は言葉の通りに手をつないできた。
ときどき、手のひらに金属のでっぱりの感触を感じるときがあるけれど、それもきっと親愛の情だろう、と達子は考えた。
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2017.0218 「告白」
由来:第37回てきすとぽい杯提出作です。お題は「臨時ニュースをお伝えします」。熱血ラブコメ風味を目指しました。
夕暮れ時、たそがれる通学路でもじもじと向かい合う一組の少年少女がいる。そのふたりを一つ手前の曲がり角に立つ電柱の後ろから見つめる怪しい男の影がある。おれだ。
うららかな春の一日も終盤に近づいている。
おれは今日こそ、今日こそ、今日こそナナキに愛の告白をしようと決意した。したのだ!……だがナナキのクラスメイトのミズオに一歩先んじられてしまったようなのだ。どうしたことだ、ミズオとナナキが顔を赤らめあって互いに見つめ合っているではないか……俺たち付き合わね? あっ、待って、返事はまだ待ってくれ。うん、ナナキには例の幼馴染がいるっていうの分かってるんだ、俺。急にゴメンな。うん。返事はあとからで良いから。じゃあ、また明日。明日また学校で……だと? ミズオ、おまえというヤツはっ……つまり、ここはそのような場面なのだ。今日という決意の日になんたる悲劇! だがおれは、今日のおれは決意したのだ。おれはナナキに告白する。たとえ何があったとしても……これから何があろうとも! 意を決して、電柱の影から飛び出す。地平にかかる夕日よ、天を駆ける蝙蝠よ、ササナカ・タイシの雄姿を御覧じろ!
「ナナキ!」
呼びかけるとナナキが驚いて振り返った。
「えっ、あっ、タイシくん?」
「そうだ。おれだ!」
困惑顔も愛しいぞ! だがいまはナナキの表情の変化を愛でている場合ではないのだ。おれの気迫に察するものがあったのか、ナナキがこわばった顔を向けてくる。なかなか勘が鋭いじゃないか、ナナキよ。だがおれは負けん!
「ナナキ……」
ナナキの肩を掴んで見つめ合う。ああ、つかみきれるくらいの華奢な骨格までも愛しいぞ!
「ど、どうしたの、タイシくん」
「ナナキ! おれ、おれはっ……!」
鎮まれおれの心臓! 言うだけだ、ひとこと言うだけなんだ! 簡単だろうササナカ・タイシ! ナナキは幼稚園からずっと一緒の幼馴染だ。カワイイ寝小便もカワイイ七五三もカワイイ入学式もカワイイ高校の制服姿も……憎らしいクソ初彼氏も……全部見てきただろう! いまさら、なにを戸惑う? さあ言え、言うんだ、ミズオがナナキを奪い去る前に!
「ナナキ! おれっ……! おれはっ!」
言え! 言えったら! ここで伝えなくてどうする? あのクソ初彼氏はナナキの良いところにちっとも気がつきやしないで別れやがったが、これから先、ナナキの出会う男がみんな見る目のないバカばかりとは限らんのだ。だからおれが……ナナキ……おれがナナキを……!
「タイシくん」
う、な、な、ナナキの顔が赤いぞ……眼もウルウルしてるぞ……こんなの聞いてない……! こんなっ……いや、おれは、煩悩を振り切るんだ! おれは真心をナナキに捧げるんだ! 誠心誠意を伝えるんだ、さあ、言え、十五年間の、とっておきの気持ちをぶつけるんだ! さあ!
「おれ、おまえの、ことが……」言え! 言えよ!「おまえの……ことがっ……ちくしょおおおおお!」
おれは逃げた。
ナナキが泣いていたのだ。
あの涙は致命の刃だ、逆らえるものか。夕日よ蝙蝠よ、おれを嗤うがいい……。いや、違う。今日のおれは違うだろう! 決意したんだ。何があろうとも、愛の告白をやり遂げる、そう誓ったのだ、夕日と蝙蝠に! 待っていろナナキ、おれはおまえに愛を告げるぞ!……おや、いつの間にか大通りまで来ていたか……む? あの建物……これは折よく……天の采配だ! お邪魔します!
「臨時ニュースをお伝えします。本日午後十六時四十五分ごろ、福岡県古賀市のうわっちょっとちょっとなんなんですか、ちょっと、ちょっとディレクター! なんか変な子がスタジオに! いま生放送中なんですよ! ちょっとやめてくださいよ、カメラさんこのヒトちょっと追い出して、手伝って、あ、ちょっとホントだめだってやめて、やめて! あっマイク……ガガッ……ピーガガッ……」
えー、ごほんごほん。これマイク入ってるのか? ん? ンン? うん。よし。言うぞ。おれはっ! 言うんだ! 言うからなっ!
おれ……おれはっ! 臨時ニュースを伝えたいっ。あふれだす想いを伝えたいっ!
ナナキ!
フクウラ・ナナキ!
県立第四高校、一年四組出席番号三十一番フクウラ・ナナキ!
おれは! ナナキがっ……!
ナナキのことが……!
ナナキのことがっ!
ナナキの、こと、があっ!
すっ
(砂嵐)
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2014.0830 「覆面作家企画6 未提出作品(未完)×2」
由来:表題そのまんまです。2014/3頃に覆面作家企画6が開催されるとのアナウンスを聞きつけまして、それからひーこらひーこら書いてたんですけど、……迷走しました(笑) お題の「火」に合わないと判断したり、プライベート滲みまくったり、ちゅーかそれ二次創作ですが……みたいな理由でボツったやつです。製作期間はそれぞれ二週間ほど。
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「クッキークリッカー二次創作」
グランマは考え事をするときに、机を指でトントン叩く癖がある。
だがそーやってトントンしているときに並行して虚空から香ばしいクッキーが沸いて出たのは彼女が六十歳の誕生日を迎えるまでなかったことだ。
虚空から生まれたクッキーは、二、三秒宙に漂ったあと、固い音を立てて机の上に落ちてきた。
ハンドメイドのふうあいが強いチョコチップクッキー。
まるで焼きたての、オーブンから取り出したそのままみたいな良い匂い。
これって食えるかな?……いやいや、そうじゃなくって、つまり、……どゆこと?
グランマは考え事をするときに、机を指でトントン叩く癖があるので、またトントンを再開したところ、また虚空からクッキーたちが生まれ落ちた。
トントン。(グランマの指の音)
カコンカコン。(落ちたクッキーが机に当たる音)
どうやら彼女は、六十歳の誕生日を迎えたこの瞬間より、指で机をトントンするごとに一枚の焼きたてクッキーを生み出す力を身につけたようだ。
ハッピイバアスデイ。
おめでとう!
匂いにつられてやってきた妹(同居中)が止める間もなくクッキーをたいらげ、「おいしーい! これどこで買ったのお姉ちゃん」とか言うので、どうやら毒は入っていないらしい。グランマは妹を部屋から追い出して、机をトントンした。
食べかすの散らばった机の上に、また新たなクッキーが現出する。
かじってみると、甘い味が広がる。
たしかにおいしい。
また机をトントンする。
クッキーは次々に現れる。
もしかして無限に出てくるんだろうか、これ。
「そのとーり!」
いきなりクローゼットが開いて、中からスーツを着た山羊頭の男が飛び出してくる。
「あなたさま、いまそこに丁度十五枚のクッキーがありますネ? 初めまして、ワタクシ、クッキー商人のジッセキと申します、よしなに」
おもむろに白手袋に手を掴まれて、ぶんぶん上下に振られる。
「ええワタクシ商人ですから、はい、あなたさまのクッキーを一枚一クパセで買い取り致します」
一クパセとは聞いたことのない言葉だが、どうやら通貨単位の一種であるらしい。
「ハイハイ、では十五クパセ、クッキーと引き換えです、どうぞ」
クッキーはどこかに消え、代わりにむりやり握らされたのは、しわくちゃの茶色い粘土のような石だった。
生暖かくて柔らかい……これがクパセ? 普通のお金とずいぶん様子が違う。
「ではさっそくお買い物を致しまショウ」
山羊頭はそう言ってどこかからカタログのようなものを取り出してきた。両開きに開かれた冊子には、痩せたミイラの腕のような絵が描かれていた。絵の横には「十五クパセ」と書いている。
これ、なんだろう……。
「良いご質問! これはあなたさまの代わりにクッキーを焼いてくれる、ええ、ハイつまり腕ですね。さあさ、買ってくださいな。あなたさまがクッキーを作る、クパセが貯まる。そして腕を買う。今度は買った腕も一緒にクッキーを焼いてくれる。クパセがますます貯まる、あなたさまはまた腕を買う、クパセがますます……! おわかりですね?」
よく分からなかったが、山羊頭が執拗に勧めてくるので、グランマはとうとう腕を一本買ってしまった。
カタログの腕の絵をトンと指でつつくと、クッキーと同じように、空中に干からびた腕が出現し、手に握っていたしわくちゃの肉塊が、しぼんだ。
腕は、宙に浮いたまま、スススと滑るように机まで移動した。
何が起こるのか……と見守るグランマの前で、腕は人差し指を立てて、机をトンとやった。と同時に、クッキーが現れた。
こちらもグランマのクッキーと同じで焼きたての甘い香りを漂わせるチョコチップクッキーだ。出来の良さに遜色はなく、まったく同じクッキーといってもいいだろう。
ただ、干からびた腕の動きは、非常に遅かった。
トン………………………………。
…………………………トン………………。
見守るグランマの前で、腕はひたすらにのろのろとうごめくばかりで、机をトンとやってクッキーを焼くのは、十秒間に一回程度の頻度だ。
「御明察。つまり十秒で一枚のクッキーを焼くのですから、あの腕を十本買えば、それはつまり一秒に一枚のクッキーが焼き上がることを意味するのです。腕を百本買えば、当然クッキーも一秒に十枚焼けるでしょう……さあ、そろそろ、お分かりになってきました?」
よく分からなかったが、グランマはトトトトンと机を指で叩いて、また新たに十五枚のクッキーを焼き、しわくちゃの肉塊に吸わせてふくらませて、カタログの腕の絵をトンと叩いた。もう一本の干からびた腕が出現して、さっきからのろのろ机をつついていた腕の横に並ぶ。
トン………………トン………………。
…………トン………………トン………………。
クッキーが、やはり遅いが、先ほどの腕一本のときよりは高い頻度で焼かれていく。
グランマにも、ようやく物事の仕組みが分かりかけてきた。
さあ、楽しい時間がはじまるよお。
妹に頼んで、とりあえず百枚のクッキーを市場まで売りに行かせた。値段は破格の格安だが、材料費はグランマが指を九十回くらいトントンしただけなので(残り十枚はあの不気味な腕が焼いていた)、採算度外視ではまったくない。
妹は一時間ほどで帰ってきて、クッキーが完売したことを報告した。
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「タイトル無し」
社員食堂から戻ってすぐに声をかけられた。
潮崎さんちょっと。
そう言われて、居室の横に併設されている会議室に向かう。
中に入ってすぐ、わたしを呼んだ先輩社員の今邨さんは、顔をしかめて腰のケースからピッチを抜いた。
LEDが点滅している。着信だ。
「はい。キサンの今邨……ええ。はい、いまから打ち合わせなので……はい。はい、至急報告します」
今邨さんがピッチを切った。
わたしにはもうこれからされるのが何の話か分かっていた。
「不具合込みのメディアはもう工程に回ってるらしい」
氷でも放りこまれたみたいに胃が痛む。
「出てしまったものは仕方ないとして、工程が稼働を始めるのが月曜。……いつまでに修正版を出せばいいか、分かる?」
「……今日が……金曜、ですから……」
考える時間を作るために当たり前の事実を口にしたところで、今邨さんの片眉が上がった。お前の時間稼ぎはみえみえなんだと言われた気がした。
「……日曜までに作れば、なんとか、間に合うんじゃないでしょうか」
急いで続きを答える。
これが正解のはず。そう思っていたのに。
「あのさ……。工場は群馬にある。ここは静岡。そりゃ日曜の夜に出しさえすれば、こっちの“日曜には出しました”っていうデッドラインは守れるが、向こうはどうなる? 週頭からメディア到着の待ちぼうけか? 郵送の時間があるでしょ。工場の納品ってのはモノを受け取るまでだから」
早口で言うのは、彼が苛ついているということなのだろう。
ここまではっきりと苛立ちをぶつけられたのは、じつは初めてではない。今月でもう三回目だ。
馬鹿を見るような目で、今邨さんは、わたしを見ている。その顔を、できるだけ直視しないようにする。
「すみません」
本当は、言いたいこともあった。
設計者は設計書を作るのが役割だ。工場がどこにあるかなんて、知るわけない……とは、とても言えない空気だから、黙っておくしかない。
「では、土曜の夜まででしょうか。土曜の夜までに作って、日曜の朝イチで出せば……」
「評価の工数は?」
評価……正直なところ、失念していた。
緊急の場合なのだから、省いても良いのでは?
と言いそうになって止めた。そうして省いた結果が、いまの不具合込み版が工程まで流出してしまった経緯なのだから。
「土曜の昼までにメディアを焼いて、午後から評価。動作確認が取れたら、日曜の朝に速達で出す。それしかない。分かった?」
分かっていたが、わたしが答えるよりも、今邨さんの先回りのほうが早かった。答えるのが遅く、また馬鹿の上塗りをしたと思われているだろう。でも返事をしなくては。
「分かりました」
「分かったんだ。じゃあ分かったとして、できるの?」
できるか?
言われてから気がついた。今まで話していた内容は、方針の、計画の話だ。誰が修正版作成の実作業をするのか? 設計を引き間違えたのは自分だ。わたしが修正するのが一番早いだろうし、自分の埋めた不具合の尻拭いを人にさせるのか? というのもある。だが、そうすると、休日も会社に出なくてはならない。経費削減の一環で、入社年度の若い社員の時間外労働は、原則禁止だ。入社時から二年目の今まで、耳にタコができるくらいに聞かされ続けている。そもそもわたしは大きなトラブルに見舞われることなく、ここまできたのだ。いままで休日出勤した経験がない。
休日出勤。
なにか手続きが必要だった気がする。勤怠の事務方と課長に許可を取らないといけないはずだ。……そこで課長に、休日出勤の許可を出さないと言われたら、どうすればいいのか。代役を、自分で探してきて、立てなければならないのか。そんなこと、自分にできるのか?
「できるの、できないの」
わたしが黙りこんでいるから、今邨さんは焦れたようだ。
ここが居室じゃなくて助かった、と思った。会議室で良かった。こんなふうに怒られているところを、同僚に見られたくなかった。いや、怒られているわけではないのだろう。手を打てと言われているだけだ。外部に流出してしまった、不具合が入った製品データが焼かれているDVDをどうにかしろと言われている。再来月には店頭販売が始まる新製品だ。そのために今月から工場で製造工程を通して、製品にデータをインストールして、チューニングを加えて、まずプレセールスで購入を確約している施設に向けた二十台を、売れる状態にもっていかなければならない。どこか他人事のように考える。
チッ、と対面で舌打ちが聞こえた。今邨さんだ。
「できないなら他に……」
「できなくはないです」
またいやな言い方になってしまった。
「どういうこと」
「時間外労働禁止の措置がなければ、できます」
「つまり、できるの?」
「それは、課長に聞いてみなくては」
「…………」
ため息をつかれた。
「そういうときは、課長には許可を求めに行くんじゃない。こういう理由なので、責任を持って休出しますと報告する。あの人はあれで融通がきくから」
課長が、融通がきく?
そんなこと知るわけがない。融通がきくなら、会社の規定は何のためにあるのだろう。残業禁止だとかいう徹底はなんのために? そう聞いてみたかった。聞いてみたかったが、同時に、また馬鹿にされるのだろうということも分かっていたので、瞬きをたくさんしていまの話を深く考えないようにした。
はい、分かりました、勤怠と課長に相談しますと言って、今邨さんが頷くのを確認して、会議室のドアを開けた。
今邨さんはドーモとだけ言って自席に戻って行った。
少し泣きそうだと思った。
本当は、日曜がダメだった時点でかなり苦しいことは分かっていた。土曜の昼がデッドライン? なぜ、できます、などと言ってしまったのだろう。
休出した土曜日、わたしは初めて終電を逃した。
修正した箇所の評価が終わろうかというタイミングで、別の不具合が見つかったのだ。同じく休出していた今邨さんに報告すると、舌打ちが返ってきた。
「不具合が見つかったときに取る施策はいくつかある。直す、先送りにする、運用回避する……が、これは駄目だな。いままで見つからなかったのが不思議なレベルの不具合だ。直すしかない」
「誰が直すんですか」
今邨さんはわたしを指している。
今邨さんは……と言いかけてやめた。メディア出し直しの承認作業と各方面への合意取りは、さすがにわたしでは代行できない。
「三十分で修正方針の設計出して。レビューは俺がするから」
わたしが設計を引いた場所ではなかったが、ノーとは言えなかった。見ようと思えば見れなくもない箇所であったというのもあるが、なにより、とても逆らえる雰囲気ではなかった。
自分の席に戻りしな、居室の壁時計を確認すると、十八時を少し過ぎたところだった。もともと休日なのだから、居室内に人はほとんどいない。加えて、十七時を回った辺りから、面倒な最終退出手続きを避ける目的もあるのか、みなぽつぽつと帰りだす。
そうだ、誰だって休日に遅くまで会社にいたいはずがない。
少し離れた島のデスクに座っている今邨さんだって、今日は本当は出なくても良かったはずだとか、いなくなった設計リーダーの代役として余所の部署から引っ張られてきたばかりなのにトラブル続きだとか、それが誰のせいなのかとか、そういう余計なことは考えず、設計を引かなければならない。
……状態遷移したときにフラグを立てる。……フラグはこう引き継ぐ。……引き継いだフラグはこのイベントで参照して、……本当に? ここで更新してここで初期化する。異常系のタイミングは? ああ、抜けている。クロスは上でガードしているから、下はログを吐くだけで良い? でも万一が……デフォルトを突っ込んで動かす……やっぱり駄目だ。ユーザーに問題があるから、エラー関数を仕込んでフェータルに落とす。あ、できた。
この時点で既に十九時だった。レビューの修正で十九時半。製造からメディアを焼くまでで二十二時に。いざ評価を終えた時には二十四時を過ぎており、評価実験室から居室に戻ると、もう今邨さんしかいなかった。
「評価終わりました」
「なんか出た?」
「出ませんでした」
「そう。お疲れさま。週明けでいいから、評価結果シートにハンコ押して机に出しといて」
「はい」
「俺たちが最後か。居室閉めるから。空調切って、帰る準備して」
「はい」
「メディアは俺が明日の朝イチに送るから、潮崎さんは出なくていいよ」
「はい」
実際、このときはもはやハイかイイエかオウム返しで足るような受け答えしかできない状態だったので、今邨さんの矢継ぎ早の指示も気にならなかった。
最終退室の手続きをして、居室を施錠して、守衛さんに鍵を渡す。
言われるままに動いていただけだったので、終電がないと気がついたのが、守衛さんに挨拶して会社の門を出たところだった。
タクシーを呼ぼう、と考えたところで、財布の中身が気になった。
今朝、出がけに昼食をコンビニで買ったとき、小銭しか入っていなかった気がする。タクシーは、当然、深夜料金だ。車を持っていないので、会社から家までの正確な距離を知っているわけではないが、準急で三駅かかる距離が、千円二千円の額で済むものではないことくらいは、想像がついた。
最寄りのコンビニは……と考えたところで、今の時間が二十四時をとうに回っていることを思い出した。
駅前にあるATMは取引停止の時間帯だ。
守衛門の街灯が頭上を照らしている。
心がけいれんしているような気がした。
麻痺のような、笑いのような、奇妙な感情が湧いてくる。
これだ。
今日一日頑張ったことへの現実の返礼がこれなのだ。
歩いて帰ろう。
明日は……今日は休みなのだから、帰れないということはないだろうと決めて、人通りのない夜の道を眺めた。
「ちょっと、潮崎さん」
一歩を踏み出す前に、今邨さんの声がした。わたしが居室の戸締りをしている間に、今邨さんは評価実験室の戸締りをしていた。評価実験室のほうが守衛門から遠い場所にあるから、わたしのほうが先に帰り支度が済んだ。
今邨さんは、ちょうどいま鍵を返しにきたところなのだろう。
「潮崎さんの家ってこの近く?」
「近くではないです」
「今日は車?」
「車は持ってないです」
「実家暮らしだっけ」
「一人暮らしです」
「そう。潮崎さんって彼氏いるの」
ぎょっとして、とっさに言葉を返すことができなかった。
反応を、見越していたのかもしれない。街灯の下の今邨さんは平静なものだった。
「あー、勘違いしないでね。帰りは危ないから、誰かいるなら車で迎えにきてもらうようにってことだから」
わたしはというと、今邨さんの年齢が二十九で引き算をすると六だとか考えて動揺していた。
「ふーん、いないの。じゃあタクシーか。タクシーは領収書取っておくように」
こちらがなにかを答える前に、今邨さんは勝手に納得して、駐車場方向に去っていった。
歩いて帰っていると、途中から、腹の底が痛くなってきた。
家は遠かった。
歩いている間じゅう、腹の中で黒い炎が燃えているような心地がした。
今邨さんの車に乗せてくださいとなぜ言わなかったのか、考えながら、遠い道を歩いた。あの人は明日も……今日も出ると言っていた。そんなことはどうでもいい。せめて、お金を貸してくださいと言えばよかった。いや、言わなくて正解だった。正解だったって、なにが。
本当に?
おまえがおかしいんじゃないのか?
家に着いたとき、既に山の端は白みはじめていた。三時間半かけて歩いていたらしかった。
泥のように眠り、目が覚めたのは正午過ぎだった。
腹の痛みはおさまっておらず、いよいよたった一日の休日を諦めて病院に行こうとしたが、結局水族館に行き先を変更した。遠い駅にある、故郷の町にあったものと似ている、小さな水族館へ。
水族館に着いたとき客はまばらだった。手をつないで生睦まじい様子のカップルがちらほら。わたしは腹をおさえながら、水の中で息をする生き物たちをながめて回った。歩いている間じゅう、腹の中で黒い炎が燃えているような心地がした。
わたしは小さなシャチのキーホルダーを買って帰った。
火には水をと思っていた。
週明けから、職場での使われ方が変わっていることに気がついた。
休日出勤したときに、ついでに不具合を潰したことが、わたしの評価を上げているらしかった。いままでは自分の力量ではむりだとされていた仕事が、集まってくる。
だが実態として、たった一度の休日出勤をしたからといって、仕事のスキルが上がっているわけがない。いまではもう、わたしが使える人間になったという見方は表向きの建前で、本音はというと、ようやく自分たちの仕事を押し付ける先が見つかったということなのだと分かっていた。
いやな見方だ。
この零細企業は常に一〇〇%以上の仕事に追われている。
だが、経費削減という名目で、残業は減らせと言う。
だからわたしは課長に怒られる。
「今月の残業時間、二十時間越えてるじゃない。原則ゼロって言ってるよね。どうしたの」
「……十二時間は、先週の不具合対応のものです」
「あーあれ。なるほど。あれはしょうがないけど、代休取ったら減るでしょ。なんで代休取ってないの? あと、他の残業はなに」
「あー、石尾さん、それ構造見直しの工数ですよ。キイチからおカネ貰ってやってる読み取り機の」
いきなり今邨さんが割り込んできた。
課長がメガネを直して、傍を通りかかった体の今邨さんに椅子ごと向き直る。
「機器開発第一から? いくら?」
「一人月ぶんどってます」
「へえ? そりゃまたずいぶん……」
「ぼったくってません。あんなゴミみてーな母体預けてくるならこっちもそれなりに貰うモン貰わないと割に合わないですよ。ねえ潮崎さん」
はあと曖昧に頷いたが、今週に入ってから突然押しつけられた仕事の意味を知ったのは、いまが初めてだった。よその部署が抱えきれなくなった仕事を引き取って、その分の代金をもらっていたらしい。
「ふーん。今邨くん、他にも内部発注のネタ持ってる?」
「まあ、いくつか。まだ確定じゃないですけどね。今期中に、三百くらいの案件と、細かい百くらいのが取れそうです」
「なるほど。それで潮崎さんを養えるわけね」
「そういうことですね。だから今月はだいたい四十時間まではセーフです」
それで話はまとまったらしかった。課長はデスクの書類に視線を落とす。もう戻っていいよという意味なのだろう。
「潮崎さん、ちょっといい」
自分の席に戻ろうとしたら、今邨さんに呼ばれた。あっち、と言われて会議室についていく。中に入ると、椅子を引かれて、対面に座るよう指示された。
「さっきの話、意味分かった? 俺と石尾さんが話してたやつ」
内部発注の話をしていることは、なんとなく分かった。
「よく分かりませんでした」
「そう。仕事振ったときも、さっきの話も、にこにこしながら聞いてるからてっきり理解しているのかと思ってたけど」
突然の通り魔にあったような気分だった。いまさらながら、わたしはこれが説教部屋なのだと気がついた。
「まずね、」
と言われて、怒られる内容が一つでないと知った。
「基本中の基本なんだけど、残業時間の管理は、必ず上長と意識を合わせて。休出も含めて、俺が仕事を振ったとき、残業は石尾さんに確認するよう言ったよね?」
「休日出勤の件は、金曜日に伝えました……」
「それで、以降の残業もオッケーだと思ったわけだ」
頷くとため息が返ってきた。
「今後は気をつけて。本当は今日俺が言った内容は、潮崎さんが石尾さんに伝えるべきことだから」
「はい。すみません」
気分が悪くなってきた。
「別に叱ってるわけじゃないから」
今邨さんはそう言うが、とてもそうは思えない。
「それから、キイチから一人月稼いでるって意味が分かってないみたいだったけど」
「すみません」
先に謝ると、今邨さんが片眉を上げた。
「潮崎さん、顔色悪いよ。俺、叱ってないって言ったよね」
とてもそうは思えないが、そう言っていた。
「あれは機器開発第一から、潮崎さんが、潮崎さんの力で八十九万円分の仕事を請け負って、うちの機器開発第三の利益に貢献してるって意味だから」
つまりどういうことなのだろう。
「土曜日、潮崎さんの設計をレビューしたでしょ。あれを見て、潮崎さんならいまのプロジェクトをやりつつキイチのお荷物まで見れそうだと思ったんだよね」
仕事が増えたのは、今邨さんのせいらしい。
「二年目でもう自分の食いぶちを稼いでるってことだよ。すごいことだから、もっと自信をもっていい」
できれば自分が何の仕事をしているのか気にかけてくれたり、もう少し周りと積極的にコミュニケーションをとれるようになったりするともっと良いけど、そこまで求めるのはまだ早いか。そう言う今邨さんの後半は、独り言のようだった。
わざわざ聞こえるように言うから、いやな人だと思った。
寝過していたようだ。
目を開けると、窓の向こうに、降りるべき駅名を掲げた看板が流れてゆくところだった。とりあえず立ち上がってみたが、すぐに意味がないと気付いた。また元の座席に座りなおす。
次の駅で降りて、反対側のホームへまわって、電車を待つ。
時刻は十九時を回ろうとしている。電車はなかなか来なかった。待つ時間が長いと、どうしても考えこむ時間が増えてしまう。歩いて帰ろうかと一瞬だけ考える。それがどんな徒労か既に分かっている身なのだから、わざわざもう一度確かめる理由はなかったと気がつく。それでも、ただ立って待つことは耐えがたかった。嫌なことばかりを考える。
体が勝手に揺れはじめる。
鞄につけたシャチのキーホルダーが揺れる。
腹の中で黒い炎が燃えているような心地がした。
2014.0219 「寄り道」
由来:てきすとぽい杯に提出した作品で、制限時間一時間。お題は「バッドエンド」でした。
会社を出るときは必ずタイムカードを切る。最寄り駅まで歩くのにかかる時間も、下り電車がやってくる時間も、把握している。
だから腕時計を見ずとも、帰りの途上で今が何時なのか分かる。あの時間に会社を出たのだから、このドラッグストアの前を通るときは、九時二十五分を少し過ぎた頃だろう、といった具合だ。普段なら、帰宅中の現在時刻など、あまり気にしない。最寄りのスーパーの閉店時間? それは自炊を行う者だけが気にしていればいい。どうせ夜食は二十四時間営業のコンビニエンスストアで買うのだし。
私が、寒風吹きすさぶ中、わざわざ足を止め、手袋とコートの隙間に埋まっていた腕時計を、そでをまくってまで見直したのは、繁華街に軒を並べているくだんのドラッグストアを通り過ぎたところで、少し意識に引っかかる看板を見かけたからだ。
お食事処。
どんぐり亭。
午後九時から十時。
左矢印。
看板には、そう書いてある。矢印の先を見ると、民家と見まごうような、背の低い平屋の一軒家が、両隣のドラッグストアと雑居ビルに押しつぶされるような格好で建っている。入り口は木の引き戸のようで、幅が狭く、それがまた民家らしさを助長している。だがそんな見た目の情報はわりとどうでもいいことで、私の気を引いたのは、一時間しかない営業時間の短さと、常日頃から通勤路として使用していた経路にこのような店があったのかという、純粋な驚きの二つだったのだ。
手首が冷たかった。
腕が冷えることと引き換えに、腕時計は正確な時間を教えてくれた。九時二十七分。
寒い。
辺りには良い匂いがただよっている。
肉じゃがに似ている。
寒いな。
二十七分なら、まだ大丈夫そうだ。
大丈夫そうだって、なにが?
寒さは思考を断片化させる。ぼんやりした自分自身に問いを投げかけて、ようやく私は、この良い匂いの出所と思われるどんぐり亭に入ろうとしているおのれを自覚した。
引き戸には擦りガラスが入っており、中の、明るいだいだいの色味が強い光を透かし見せている。
私は手袋も脱がずに戸を引き開けた。
途端に、中からふきだした、むっとする熱気が顔に当たる。店の中は外観の通りに狭く、手前がカウンター席で、客は三人いて、私はほんの少し安堵して、後ろ手に戸を閉めた。
カウンターの内側には店員が二人いた。あたたかな湯気の出どころは、しかしカウンターの中ではなかった。カウンターの奥にカーテンが引かれており、その向こうから、熱気はふきだしてくるようだ。火を扱うときは、奥の厨房に引っ込むのだろうか。一通り店内を見渡して、私の目は二人の店員のところに戻ってきた。
そういえばいらっしゃいませの一言もかけられていない。
そういう、店なのだろうか。
そのとき、とんとん、という音がした。音はカウンター席の一番奥から聞こえてきた。客の一人が、指でカウンターを叩いていた。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ」
指が合図だったのだと言われても信じてしまいそうだった。突然、私のほうに向き直り、声をそろえて挨拶をしてきた店員に、少し辟易する。厭な店だと感じた。なぜこんな店に入ってしまったのだろう。
あの、食事を。
「メニューはこちらになります」右の店員が言う。
では、その。カレーライスを。
「かしこまりました」左の店員が言う。
心にもないことを言ってしまった、と思った。カレーなど食べたくなかった。だが、早くこの店から出たかった。カレーならば作り置きをしているだろう、すぐに食事が出てくるだろう、という打算の結果の注文だった。
「カレーライス!」左の店員が、奥の厨房に声をかける。奥にも誰かがいるらしい。
カウンター席の、空いている席は二つで、私は入り口に一番近い席を選んだ。
他の客は、肉じゃがみたいなものを、たぶん肉じゃがなのだろうが、その肉じゃがをぼそぼそと口に運んでいた。ときおり、カウンターを指でとんとんと鳴らす客がいる。その意図は分からなかった。店員は、反応することもあれば、無視することもあった。しばらくすると、奥の厨房から、白い湯気がただよい出てきた。
その間私はおとなしく待っていた。
気づまりな空気の中、カレーが出来上がるのを待っていた。
しゃべることもはばかられる、厭な気分だけが増してくる時間だった。
そうこうしているうちに、いつの間にか、腕時計は九時五十五分を指していた。もう閉店時間も近いというのに、カウンターの中にいる二人の店員は、奥の厨房を急かす様子もなく、ただ突っ立っている。
すでに他の客は、皆、出されていた皿を空にしていた。だというのに誰も帰らない。カウンター席に座ったまま、立ち上がらない。ただ、思い出したかのように、ときおり指でカウンターを叩くだけだ。
あの。
私がとうとう声を出したのは、いよいよ時計の針が九時五十九分を回ったときだった。
もう帰ります。
そう言って、席を立った。気は急いていたのに、足は痺れていた。痺れがおさまるのを、私は半ば焦りながら待った。
ようやく動けるようになって、カウンターに背中を向けて、引き戸に手をかける。戸の隙間から冷気を感じる。外は寒いだろうが、そんなことはどうでもよかった。力を込めて戸を引くと、手ごたえが返ってきた。
開かない。
戸は開かなかった。
腕時計の針は十時を回っていた。営業時間は終っていた。
とんとん、と音がした。
とんとん。
とんとん。
振り返ると、二人の店員が、三人の客が、皆が私を見ていた。皆がカウンターを指で叩いていた。
とんとんとんとん。
だんだんと音がそろってくる。同調するように、奥の厨房から漂い出ていた白い湯気の勢いが強まる。
とんとんとんとん。
間仕切りしているカーテンがゆらめいた。
2014.0214 「忘れられた願い」
由来:てきすとぽいの「短歌小説コンペ」提出作、作成時間はほぼ無制限だったはず(期間提出で、一時間とか二十四時間とかじゃない形式だったような……)。5・7・5・7・7のリズムを守るルールでした。バレンタインになに書いてだこいつって感じになっちゃいましたね。
妹は、ある日姉を失った。いつかは戻ると信じて待った。
美しい、彼女の自慢の姉だった。名をアウロラというのであった。
アウロラはある朝竜になっていた。訳知り顔の占者は言った、
「この者の中身は消えた、諦めよ」
――しかし身体は残っているぞ!
「器には竜の臓器が詰められた」
――信じるものか!
鼻で笑った。
だがそれは、ほんとうのことだったのだ。
優しい姉は消えてしまった。
けだものになってしまった。妹の顔も分からぬけだものに。
けだものに妹は名をつけ直す。けだものらしい、ふさわしい名に。
アウロラは、姉の名前だ。けだものに姉の名前は使わせられぬ。
――おまえなど、排泄物の名で足りる。
アウロラは消え、反吐が生まれた。
その日から、妹は反吐を飼ってきた。人ならぬ反吐は人を食した。
妹は、ひたすら耐えた。
おぞましい。人肉を食み、臓腑を啜る。
だがいつか、姉に戻ってくれるだろう。望みを口に出さぬ日はない。
血にまみれ、竜を従え、さ迷った。聞こえる噂に耳をふさいで。
――人喰いの、おんなと竜が、居るという。
――殺せさあ殺せ、殺してしまえ!
漂泊の旅は永久には続かない。袋小路が死に場所だった。
あっけなく、怒り狂った斧の刃が、逃げる妹の脳天を割る。
だが反吐は、腐っても竜。血を流す妹を踏み、追手を噛んだ。
ぐしゃぐしゃぐしゃ。
――あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ。
――あ、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ、ぎゃ!
血の雨が降る。頬をひと舐め。
その時だ。
アウロラは路地に立っていた。
足元に人、誰かと誰か。ぐちゃぐちゃで、踏みつけられた、人の跡。顔も分からぬ死体が二つ。
アウロラは悲鳴を上げて気絶した。
目覚めた彼女は、優しくされた。
可哀想、人喰いたちにさらわれて。
そうだったの? と、彼女は言った。
妹が願いを込めた名の通り。分かっていたから反吐に喰わせた。
人肉で、竜の臓物を吐きだした。
入れ替わるまでちょうど百人。
顛末は誰も語らず消えてゆく。
姉はしあわせに暮らしたという。
2013.0818 「珠算赤魚」
由来:てきすとぽい杯に投稿した作品、作成時間は24時間、1000字ジャスト制限、お題は金魚
金魚発祥の歴史は古代中国南北朝時代までさかのぼると言われている。
※
黄巾の乱に端を発した三国時代もはや一五〇余年も過去の話――西暦四三五年。元嘉の治と称される、後世から見て比較的安穏で文化的なこの時代、中国大陸江南に興った宋の都建康(南京)の大通りをゆく一人の男がいた。男の名は陳銘。元は地方役人の家に生まれた次男坊だったのだが、幼少時より手のつけられぬ悪童であったため、国子学の学生に潜り込んで二年で放校に処された事件以後、親族からは絶縁を宣言されている。その陳であるが、彼はいま六尺一寸の背丈を窮屈そうにかがめ、腹の前に大きな鉢を抱えて、国子学時代の知己である鄭という男の家を目指しているのだった。
「それで、これが、何だって?」
「馬鹿野郎。二度も説明させる気か。金になる魚だと言ったろう」
建康の北ほどにある屋敷の前庭で、二人の男が鉢を囲んで座り込んでいる。陳と鄭その人である。鉢には水がなみなみと湛えられており、色鮮やかな赤い鱗の魚が数十匹、泳いでいるようだ。鄭は猜疑の目でもって隣の男を睨んだ。が、当の陳はどこ吹く風である。
「まあ見ていろ」
言うなり陳は両手を鉢の水に浸して、赤い魚を追った。掌を間仕切りのように使って、ちょうど十匹分の魚を手の中に囲い込む。魚たちは窮屈そうに身を寄せ合っている。
「一匹、中に入れてくれ」
陳が言うので、鄭はそうした。十一匹目の赤い魚を陳の囲いの中に放った途端、合わせて十一匹の魚は暴れ出し、陳の手の囲いを無理やり乗り越えて逃げ出した。その特徴的な逃げ方に、鄭はようやく陳の言葉を理解した。
「つまりこれを算盤にしようってわけな」
算盤、つまり、そろばんである。陳の手の中には一匹だけ魚が残っていた。九匹は陳の右手を乗り越え、一匹は左手を乗り越えた。そういう習性の魚なのだと、陳は言った。突然変異のこの赤い魚は、集団の数が十より増えると、必ず二方向に別れて住処を移すのだという。
「確かに、こいつらで珠算をやったら壮観だろうなあ。……分かった。お偉い国子学に売り込んでやるよ」
うっそりと笑みかわして二人の男は別れた。
その後の記録はほとんど現存していないが、一説には、学府の奥に秘匿された赤い魚は交配を重ね、測量や天文の複雑な算学にたびたび用いられたと言われる。文化大革命の折に観賞用の金魚と混同されことごとく破壊され尽くすまで、美しい赤い魚たちは大陸の算学を支えたのである。
2013.0818 「おとなになるまで」
由来:てきすとぽい杯に投稿した作品、作成時間は24時間、1000字ジャスト制限、お題は金魚
外まであとすこしというところで、エリコは捕まった。
「待ちなさい、きみ」
黒服の男はエリコからジェラルミンケースを取り上げて、中を検めはじめた。こどものエリコでも運べる小型のケースを、男は片手のヒラで支えて、もう片方の手で器用にフタを開けている。
「これは、虫?」
ケースから人工虫たちが入った試験管が引き出される。エリコの育てた虫たちは光に弱い。ケースから出されたかれらの寿命は短く、末路は近い。色鮮やかな線虫がガラスの中で身をねじるようにくねらせて、最後の力で試験管の口から飛び出した。黒服の男は、至極冷静に、手の甲にすがりついていた虫を潰した。
「きみ、中央研究小学の制服じゃないか。ホーム一番の秀才が、こんなものを外に持ち出して、どうするつもりだったの」
ぬめった指を黒服になすりつけて、男がたずねてくる。外、というのは、エリコがくらしているホームの境界の外側を指している。ホームから放逐された人々と、飢えた野生の金魚がうろつく悪徳の地。エリコたちの文明が金魚にすくわれた日からずっと続いている世界の在り方だ。
ある日突然、ほんとうに突然に、エリコたちの先祖は、金魚にすくわれてしまった。それはかつて先祖が娯楽のため金魚をすくいすぎたためだとか、全ての獣に宿る精霊の恨みがたまたま金魚を代行者にしたからだとか、脳科学者が秘密裏に施した論理転換の実験が上手くいきすぎたためだとか、原因はさまざまに議論されていたが、とにかく、そうなってしまった。エリコたちは唯一安全な、ホームと呼ばれる狭い土地に、互いの場所を奪い合うようにしてすみついている。外が金魚の捕食場ならば、ホームは養殖場だ。直ぐに食べられることはないが、増えすぎたら間引きで外に放出される。犯罪を犯すか、そうでなければ歳をとった者から順に。
「わたし、持ち出すつもりなんてなかったわ、おじさん」
エリコが答えると、男は不思議そうな顔で、フタの空いたケースと、手の甲の潰れた虫と、エリコの顔を眺めた。エリコは高らかに笑うとその場から身を翻して駆け去った。
おじさん、いくつ? わたしは十二歳。その虫、お腹に卵がたっぷり入っているの。光に当たると、死を予感して、近くのものに産みつける。おじさん、あと何年で外に行く? わたしがおとなになるまでに、外に行って、金魚に食べられて、あいつらに病気をたくさんうつしてちょうだいネ。金魚のいない、きれいな世界。おねがいよ。
2013.0413 「不帰迷宮」
由来:てきすとぽい杯に投稿した作品、作成時間1時間、推敲15分、お題はとある「絵」なんだけど、、、リンク作業してないです、すみません
闇の血が滴る地下迷宮に潜って早三日。女は一人暗闇の中を進んでいる。
四日前、女はまだ外の世界にいた。三日前、女は炎の指を持っているという理由で、借金の形にこの迷宮へと送りこまれた。二日前、女と同じく迷宮の奥を目指していた探索隊は、残らずいなくなってしまった。
暗闇の中にあっては死ぬまで燃え続ける赤熱の指は重宝されるのだという。彼女はトーチという呼び名をつけられて、両脇を護衛に固められ、先の見えぬ迷宮の先導を強制されていた。探索隊の人数は総勢百名弱。大隊を編制していたものの、初日の、迷宮浅部で突如としてあぎとをひらいた地割れに半数を呑みこまれたのを皮切りに、影の魔物や、またぞろ地下へと続く奈落の穴が、勇敢な救国の勇者たちを帰らぬものと変えてしまった。女の現状のきっかけは、国王の無慈悲な号令にさかのぼる。
曇天の晴れぬ空がもうずっと続いている。太陽の失われたこの国に、もう一度光を取り戻すのが汝ら探索隊の使命である――。
太陽は迷宮の奥底に封されている。国一番の占者が予言したたった一枚の図案のために、国中の屈強な男たちが集められた。それこそはこの国に古来より秘されてきた不帰の地下迷宮の地図。最奥に、双子の太陽の片割れがいる。女はたった一人になってしまった今でも、迷宮の最奥を目指しているのだった。
[※ここに挿絵]
女は指先の炎が消えかかっていることを知っていた。炎が消えた時、女は死ぬだろう。食料はほとんど尽きかけている。飢えと渇きが張り付いた体は、ともすれば正しい道順を忘れそうになる。間違えてはならぬ。最初の別れ道を右、次を左、次を右、最後にまた右に行けば、太陽は女を迎えてくれるはずなのだ。そして、女は既に三つの別れ道を越えてきた。女の炎の指を守ろうとして屍と成り果てた男たちを置き去りにして、とうとうここまでやってきたのだ。男たちの断末魔は、幻聴のように女にまとわりついた。皆口をそろえて必ず言った、おれの代わりに太陽を手に入れてくれと。
――そのとき、小さな水の音が聞こえた。
女ははっと身じろぎした。力の入らない腕を叱咤して指を前方に掲げた。暗く深い迷宮の最後の別れ道がそこにはあった。水音は、どうやら女から見て左の道から聞こえてくる。喉の奥からよだれがあふれてくる。女は唾を飲んだ。同時に、左の道から聞こえてくる水音も大きくなる。
女の足は、ふらふらと左に吸い寄せられていった。果たして数刻の後、女の指は迷宮に不似合いな穏やかな水場を照らし出していた。乾ききっていた女は、狂喜して水場に飛び込んだ。喉を鳴らして水を飲みこんだ瞬間、女の体は迷宮の壁面に引きずりこまれた。最期の瞬間、女は喉の奥に違和感を覚えていた。
まるで自分を呑みこんだみたいな。
2013.0224 「魔法少女なんたら」
由来:珪化の国書いてる途中で気の迷いが起きて、書き逃げした。
「ぐわああ〜あああ!」
日曜日の昼下がり。
平和な学生街の一角にポツンと建っているアパートの一室で、頭を抱えて奇声をあげている男がいる……俺だ!
「死ね! 死ね! 死んで後悔しろ、一時間前の俺!」
『そんなに恥ずかしかったゲコ?』
ベッドにうつぶせになってのたうちまわる俺の視界にどピンクの物体がうつる。
自称魔法カエルのピョン吉だ。
見た目は、そのへんのアマガエルを捕まえて空気入れで野球ボール大までプープー膨らませて仕上げにピンクの絵具で塗りたくったナニモノカに見える。
存在がびっくりするほど嘘くせえ。
だがこいつは本物だ。
本物の魔法カエルなのだ。
本物の魔法カエルで、俺が魔法少女に変身するための力とやらを授けやがったクソ野郎なのだうおおおくたばれ!
『でもでも、キミが決断してくれたおかげで、ミナトマは助かったゲコ』
「うるせえ両生類! 湊真は助かったかもしれねえが、俺の人生が終ったわ!」
がばとベッドから起き上がり、枕元でぴょんぴょんしていた魔法カエルを捕まえる。
あっ、ねばねばしてきた。分泌してる。こいつの皮膚、すげえ分泌してる!
『魔法少女は正義の味方ゲコ。正義の味方に自己犠牲はつきものだ、ゲコー』
「そんなんじゃ誰も魔法少女なんてやらねーよ! 仕組みを改めろ!」
『さっそく組織に意見出しゲコ。モヨギは意識の高い魔法少女ゲコ。でも、ピョン吉にはそんな権限無いゲコ。ごめんゲコ』
うわっ、手のひらがかゆくなってきた。
最悪だな、このカエル。殺意がわいてくるぜ。
いや、いや、本当に殺意を向けるべきは、やはり一時間前の俺なのだ。
あの時、こいつの口車に乗って「分かった」なんて言わなけりゃ……!
と、ここで一時間前にさかのぼって俺がどんな愚を犯したか微に入り細に穿ちで回想してもいいんだが、実際、恥ずかしすぎて正気を保てる自信が無いから、ちゃっちゃと言っちまおう。
俺は幼馴染の湊真とゲーセンに出かけた!
湊真が対戦格闘ゲームで見知らぬ相手に死体蹴り(体力がゼロになり、負けて倒れた相手にさらに攻撃を加えること。四つのぷにょぷにょしたものをくっつけて消すパズルゲームなんかじゃ、勝負が決まった後でも大連鎖をかますのは、まあまあオーバーキルだななんて観衆にとってむしろ歓迎される行為らしい。だが対人対戦格闘ゲーム、てめーは駄目だ!)をしやがった!
筐体の反対側で怒声が上がった!
湊真のバカ、けらけら笑って「こわーい」だとふざけんな!
案の定逆上した怖いアンチャンが俺たちに(俺は隣で見てただけなのに!)詰め寄ってきた!……その時、声が聞こえたのだ。
魔法カエルの声が。
で、なんか契約がどうのとかごちゃごちゃ言うから、分かった分かった、なんでもするから助けてくれよ、って言ったら、ピカーッ! へんしーん! ドカーン! だよ。
俺は魔法少女になってたんだよ。
ファンシーな魔法で怖いアンチャンをぶっ飛ばしてたんだよ。
で、ゲーセンの職員にこってりしぼられて(お客様同士のケンカは禁止なんですって)、しょんぼり謝ってたら、変身が解けて全裸だよ。
はい終わった! 俺の人生終わった!
『そんなことを気に病んでたゲコ? アフターケアとして、ちゃんとマントを貸したゲコ』
「勝手に心を覗いてんじゃねえーよ!」
それに、全裸にマントは最悪の組み合わせだ!
家への帰り道、まるきり俺は変態だったじゃねえか!……あっ、だめだ、思い出したらまた死にたくなってきた……。
かゆみを誘発する正体不明の粘液を垂れ流すカエルから手を放して、ベッドにもう一度うずくまる。
俺、もう十八歳だよ。
十八歳の男が公衆の面前で全裸になるのはアウト過ぎるだろ?
たとえ魔法少女の存在が一般的になった今時分、猥褻物陳列罪の罪状がこと魔法がらみに関してゆるゆるになっている現状を踏まえてもさ。
『大学生で良かったゲコ。小中学生なら、確実にいじめられてたゲコ』
「良くねーよ! 死ね! だいたい、その液体はなんなんだっ!」
『モヨギ、もしかして興奮してるゲコ? ピンク、粘液、ベッド。確かにいけない妄想ワードがそろった感はあるゲコ』
「うわあああ! 黙れええええ!」
2012.1118 「舘山マサシの左手」
由来:外部サイト「即興小説トレーニング」さんの2時間タイムアタックモードで書いたものの4000字で力尽き、チクショーと続きを書いてみたものの、無理だ……とあきらめた、それです。
小早川サナエの最近の主義主張は「感情を優先すること」それに尽きる。彼女は若い。十八歳のうら若き女子高生だ。若者にありがちといえばそれまでの話なのだが、つまるところ、ものの本を読み、ある思想にあからさまに傾倒してしまったのである。
彼女の信奉する本によると、こうである。人間は自分の意思を完全に相手に伝えることは出来ない。というのはなぜかと言うと、人間には五感(あるいは六感)が存在し、何かを感じるということは、それら五感を駆使してその何かを感じとっているのであり、とすると声や絵画や映画や思想の薫陶は必ずいずれかの五感が欠けるか摩耗するかしているので、最初の一人の発信者本人以外の者は、一〇〇パーセントの意図を理解することはかなわないのである――といった内容だ。
別段、その本が真新しいことを述べているわけではない。だが多感なお年頃の女子高生には、少々刺激が強すぎた。サナエは、自分が一生誰からも理解されない可能性があり、しかもそれは結構な具合に当然である、と切り捨てられたに等しく感じたのである。理解されたい。一人になりたくない。見捨てられることへの不安が、少女の胸を震わせる。ひょっとしたら、最近になって彼氏にフられたことによる不安感が根底にあるのかもしれなかったが、そういった事情も含めて、若い娘がちょっと偏向な思想にかぶれることは、ままあることと言って差し支えないだろう。
だが彼女の場合、そのかぶれかたが尋常ではなかったのである。
小早川サナエは、こう考えた。意思が伝わらないのは、身体の外に出してしまうからだ。たとえば声だ。感じたことを声という手段で伝えようとすると、自分の脳と声帯と大気を挟んだあと、さらに相手の鼓膜と相手の脳を経由しなければならない。こんな伝言ゲームでは、伝わらなくて当然なのだ。
ならば如何するか? 経由を減らせばいい。そうして小早川サナエがたどり着いた答えが、感情を感情のまま夢に載せて相手に届ける手段、すなわち呪言であり、つまり丑三つ時の丑の刻参りなのであった……。
…………。
「で……つまり、これ、ナニ?」
正直言って、気持ち悪いんだけど……と続けなかったわたしの優しさを、誰か褒めてほしい。
なのに舘山マサシのヤロー、おまえには理解できないだろうな、みたく馬鹿にしきった眼つきでわたしを睨んでくるのだ。こわ〜っ、舘山マサシ、眼つき、悪う〜っ!
わたしが雑巾つまみしていた薄桃色の便箋を、ぴっ、と音がするみたいな勢いで取り返したあと、舘山マサシは深くふかーくため息をついた。
何か言ってくるかなと思って身構えたけど、舘山マサシは、無言のまま、黙々と机に向かう作業に戻っていった。まるでわたしがちょっかい出したのなんて、なんでもないぜ、みたいな感じだ。
……感じわるーい。
ん?
あ、ちょっと待って。
いま、ひょっとして、ものっすごい誤解してないよね?
もしかして、わたしが舘山マサシのことが大好きで、相手にしてほしくってこんなしょーもないちょっかい出してるなんて、思ってないよね! 違うっつーの!
舘山マサシのことは、どうでもいい。心底、どうでもいい!……うわっ、なにあいつ、わたしの心の声でも聞こえてるのかな。いま、超怖い顔でこっち見てるんだけど。
まあ、舘山マサシのことは置いといて。
なんでわたしが、放課後の文芸部の部室の隅っこで、害のない、でもまったく生産的でない手紙をしたためているクラスメート(敢えて言うが、舘山マサシのことだ)に絡んでいるのか、ってことなんだよね。
……はああ。ホント、なんでなんだろ。
や、分かってる。本当は分かってるんだけど、認めたくないっていうかさ。
わたしの名前は小早川ミツ。あいつが手紙にしたためている小早川サナエの、妹だ。ついでに言うと、十六歳の高校一年生で、陸上部に所属していて、まあ実際足は速いよ? 中体連では地元じゃウン年ぶりの表彰台にのぼってさあ、地元紙にインタビューとかされちゃってさあ、それでさ、……。
何の話だっけ。えへへ。
そうだそうだ、なんで舘山マサシが姉ちゃんのことを手紙に書いてるのかって話だった。ついでに、なんでわたしがその手紙の中身を覗き見ているか。
聞いて驚かないでよね。
実は、舘山マサシは、というか舘山マサシの左手は、というかあいつの左手で書いた手紙は、「この世ならざる者」ていう人たちのところに届くようにできているらしいんだ。
何言ってるか分からないって? 大丈夫、わたしも全然分かってない。たはは……。
もともと、最近の姉ちゃんがなんか変だな、と思ったのがきっかけだったんだ。
いつも明るい(というより、家族だから言うけど、あれは無神経っていうんだな)姉ちゃんなのに、今月の頭くらいから、急に元気がなくなった。
全然笑わなくなったし、テレビのお笑い芸人に対して苛烈な批判もしなくなったし、なにより、「AV男優」って勝手に呼んでた近所のコンビニ店員に対する愚痴を、ひとっことも言わなくなった。や、最後のやつは、まあ、その方がいいんだけどさ。
急に姉ちゃんがそんなになっちゃったら、気になるじゃん。妹はさ。
だから、わたしは一日姉ちゃんを観察することにしたんだ。
朝は姉ちゃんより早く起きて様子を見たし、学校は姉ちゃんより遅く家を出て登校時におかしなことが無いか見張ったし、休み時間は体操服借りるふりして姉ちゃんの教室に行ったりして……くそっ、あンときあんた汗っかきだから貸すの嫌なんだけどって、あんな大声で言わなくったっていいじゃない! 三年生の苦笑い、わたしは忘れないからね!
……そういえば、舘山マサシも三年生に兄ちゃんがいるって聞いたことあるな。
…………。
いや、高校三年生にもなった男の人が、そんな軽薄な噂話を広めるなんて、信じちゃ失礼だよね。あはは!
え? また脱線してる? あ、そうそう。姉ちゃん観察の話だ。
で、放課後も、腹が下りましたって言い訳で部活を休んで……だってしょうがないじゃん。頭痛いって言ったら風邪を疑われて体温測らせられるし、嘘がばれちゃうし、かといってお腹痛いって言ったら生理かと思われちゃうじゃん。顧問の先生、若い男の人だよ。恥ずかしい。
なに、下痢とどっちもどっちの恥ずかしさ? 乙女心がわかってないなあ。
ま、とにかくわたしは部活を休んで、家に帰る姉ちゃんの後ろをつけてたんだ。
でも姉ちゃんは普通だった。
元気がない以外は、いつもと一緒だったんだ。
だんだんわたしも、自分がやってることがアホくさくなってきてさ。
そろそろ止めようかなって思ったんだけど、一日が終わるくらいまでは続けようって思ってね。姉ちゃんにしてみれば、見張られてるみたいで嫌だったかもだけど。
夜、目が覚めたのは、本当にたまたまだった。
隣の姉ちゃんの部屋から、音が聞こえたんだ。
わたしは息を殺して、姉ちゃんのものおとに耳をすませてた。
そろ、そろ、という足音が、わたしの部屋のドアの前を通った時、ぞぞぞ〜っと悪寒が走って、姉ちゃんがなんだかとんでもないことになっているってことに、そのときようやく気付いたんだ。
姉ちゃんはそのまま家を抜け出した。わたしも……後ろをこっそり、ついていった。
まあ、そのあと追跡劇がいろいろあって、見失ったり再捕捉したりとかやって、とうとう深夜二時を回った神社の境内で、カーンカーンと藁人形に釘を打つ姉ちゃんを、わたしは見てしまったのだ。
そりゃあもうビビったよ。
わぎゃーって慌てふためいて神社の階段を駆け下りて逃げ出して……わたしは不注意のあまり、曲がり角から出てきた舘山マサシに思いっきり激突してしまったんだよね。
まあ、わたしだけが悪いわけじゃない。
未成年のくせに、あんな時間に外をうろうろしていた舘山マサシも問題だ。
「ねーちゃん! ねーちゃんが鬼婆に!」
確かわたしはそんな言葉を連発していたような記憶があるような、ないような……。
とにかくその夜、舘山マサシは事情を了解してくれたのだ。
普通の夜更かし不良男子高校生なら、はあ? の一言で切り捨ててもいいはずなのに、ふにゃふにゃのわたしの話を聞いてくれた。そこは評価してやってもいい。
あとで聞けば、なんでも舘山マサシのお家はこういう変なことをなんとか解決するお仕事を生業にしている、なんていう話だったから、ま、手を差し伸べるくらい当然なんだけどね。
それで、最近、どーにもこーにも様子のおかしい姉ちゃんを、どーにかこーにか元に戻してもらおうと思って、こういうことになっているのだ。
舘山マサシはお仕事だから、「この世ならざる者」にお手紙を書いている。
でもってわたしは、姉ちゃんのことが心配だから、手紙の中身を覗き見している。
文芸部の部室で手紙を書いているのは、舘山マサシが文芸部に所属しているのと、他の文芸部員が幽霊部員でまったく顔を出さないから、こういうこみ入った事情がある場合の落ち合いに便利だからだ。
あ、いま、わたし、すっごい嫌なことに気づいちゃったよ。
放課後の教室に、舘山マサシと二人きりだよ。うげえ。
うっ……また、舘山マサシの机から、険しい視線を感じる。こいつはエスパーか?
「何よ。言いたいことがあるなら、言えばいいのに」
そういえば、舘山マサシはほとんどしゃべらない。
クラスメートとしゃべってる姿もあんまり見ないし、実際、にこやかに談笑するこいつの顔なんて、わたしの想像力じゃあちょっと及ばない。
無口な男の子って、苦手なんだよね。
しゃべらないから、表情から何考えてるのかを見ないといけないんだけど、ほら、わたしってお年頃の女の子じゃん。あんまりジロジロ人の顔をみるのもさあ、ねえ。
「ひょっとして、不思議な手紙を書ける代わりに、しゃべっちゃいけない、なんて理由があったりする?」
なーんて、そんなファンタジックな理由なわけないか。たはは……。
…………。
……あれれ。
舘山マサシが、びっくり顔で、こっちを見てるよ。
これは、もしかして、もしかする?
「わたしの推理が正解だったりするわけ?」
舘山マサシは、薄桃色の便箋を机の端によけると、大慌てで引き出しをガタガタやりはじめた。なんだ、こいつ?
「……メモ帳?」
可愛い意匠の便箋とは雰囲気のまったく違う、事務的なメモ帳をとりだすと、舘山マサシはすごい勢いで真っ白な紙面に文字を書きはじめた。
書くっていうか、もはや書きなぐるってレベルだ。書きたいことがいっぱいあるのに、手が追いついてないって感じ。
ていうか……字、きったないなあ。便箋に書いてたのは、ちょっとびっくりするくらい綺麗な楷書だったのに。
「どれどれ……げっ、マジで字ぃ汚いなあ。フ? バヤ、ヤ? あっ、これまさかわたしのこと? 読めないっつーの。『コバヤカワさんの考えは正解』……ちょっと、小早川くらい漢字で書いてよね! ちっちゃいに、日に十のほうの早いに、三画のほうの川なんだけどなあ、っていうか、さっきの手紙にはちゃんと書いてたじゃん! で?……『あの手紙を書いている間』……『ぼくはしゃべることができない』……ふーん。そうなんだ。え? 『お願いだから』なによ。『いちいち朗読しないでほしい』……なんで?」
なんで? と言ってメモ帳から顔を上げると、舘山マサシは……舘山マサシは、なんと、耳を赤くしてうつむき加減に震えているのだった。
なに? ひょっとして、怒った? あーああ、やっちゃったなあ。
舘山マサシ、いままであんまり話したことなかったけど、今日部室に来てからずっとガン飛ばしバトルばっかりだったから、割とわーっと言っても平気な相手かと思ってたけど。実はナイーブな神経を持ってたのかなあ。
「えーっと……。ごめん。もしかしてわたし、言いすぎたかな。昔っから言うことがきついってよく叱られてるんだけど……なにか怒らせるようなこと、言っちゃった?」
ええい、こうなりゃ一転、しおらしくしてみよう。
なんてったって舘山マサシは、うちの姉ちゃんを何とかしてくれるかもしれないんだからね……って、ありゃりゃ。今度は机につっぷしちゃったよ。
舘山マサシって情緒不安定ってやつなんだろうか。
そんなんじゃあ、困るんだけどな。こいつには、もっとしっかりしてもらって、元の姉ちゃんを取り戻さないとなんないんだから。
……そうだ。
なんだかんだ言ってるけど、わたしは舘山マサシの仕事ぶりに、期待しているのだ。
あの明るくって口が悪くて態度がデカくて暴君で非科学的なものにはキョーミありませーん、て斬って捨ててた傲岸不遜な姉ちゃんが、陰気な眼つきで、藁人形を持って、夜中に黙って家を抜け出したんだ。
なんだかとても怖ろしいことが姉ちゃんの身にふりかかってる。
そんなオカルティックな話を、あの夜出会った舘山マサシは信じてくれたんだ。
姉ちゃんを元に戻すことができるって、そう言った。
……言ったなら、責任持って、やんなさいよ、バカ!
「んもーっ、なんなのよ、言わなきゃっていうか、書かなきゃ分かんないじゃない。くらえ、糸田のびんぼうゆすり!」
クラスメイトの名前を使って机をガタガタやると、さすがに舘山マサシも起きあがった。わたしが調子に乗って揺らし続けていると、書き物に使っていたボールペンが机の端から落っこちそうになって、舘山マサシの左手が慌てて救出に向かって……なんだかおもしろくなってきちゃって、わたしはアハアハと笑ってしまったのだった。
ようやく舘山マサシが、あのムッとした顔に戻る。
だいぶ冷静になったみたいで、メモ帳に書きはじめたさっきの続きは、今度はずっと読みやすかった。
「なになに。……『朗読をやめてほしい理由は』あっ、そうだった。ごめんごめん」
うっかりまた読み上げていたわたしは、頭をぽかっと叩くふりをして(舘山マサシには黙殺された)、今度は目だけで文字を追うことにした。
『朗読をやめてほしい理由は、恥ずかしいから』
恥ずかしい? ええーっ、てことはさっきの舘山マサシは、怒ってたんじゃなくって、恥ずかしくって赤くなってたのか。でもなんで? 変なやつ。
『自分の言葉を他人に朗読されるのは』
うんうん。
『録音した自分の声を再生されるみたいで嫌だ』
うっ……それは、たしかに、イヤかも。わたしは自分の行いをちょっとだけ反省してしまった。
『だけど』
だけど?
『こういうふうに黙られると』
あっ、急に書くスピードが上がった。
『どこまで読んでもらったのか分からなくて不安になる』
えっ。
『って分かった』
た、まで書ききるやいなや、舘山マサシはものすごい速さでメモ帳のページを破ると親の敵を見るみたいな眼つきで紙をぐしゃぐしゃにして部室の隅っこにあったゴミ箱向けてスリーポイントシュートを決めた。すごい早業だ。……あっまた机につっぷしちゃった。
「よくわかんないけど。難儀なのねえ」
わたしは、とりあえずそんな慰めを口にしてみたのだった。
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